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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)9号 判決 1979年4月12日

原告(選定当事者) 物部長興 外三名

被告 通商産業大臣

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が東京瓦斯株式会社に対して、

(一) 昭和四七年六月二八日付 47公第四四一〇号

(二) 昭和四九年八月二三日付 49資庁第一三七一三号

(三) 昭和五〇年二月一八日付 49資庁第二二二三六号

(四) 昭和五一年一月一三日付 50資庁第一三五二九号

(五) 昭和五一年六月一七日付 51資庁第 五五二四号

(六) 昭和五一年九月一四日付 51資庁第 九二七一号

でした各一般ガス供給規程変更認可処分はいずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

(本案前の申立て)

主文と同旨の判決

(本案についての申立て)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二請求の原因

一  原告らを含む別紙選定者目録記載の選定者ら(以下「選定者ら」という。)は、後記本件各認可処分による変更前の一般ガス供給規程(昭和四六年三月二〇日付46公第七七一〇号認可、同年四月一日実施)に基づき、東京瓦斯株式会社と燃料用ガスの継続的供給契約を結んだ者である。

二  被告は、東京瓦斯株式会社がした各一般ガス供給規程変更認可申請に対し、第一の一(原告らの求めた裁判)1掲記の各認可処分(以下「本件各認可処分」という。)をした。

三  しかしながら、本件各認可処分はいずれも1の理由により手続上重大かつ明白な瑕疵があるから無効であり、かつ2の理由により無効である一般ガス供給規程を認可した点で無効である。すなわち、

1  ガス事業法(以下「法」という。)第一七条第一項所定の認可処分をするに当たつては、法第四八条に定める公聴会を開かねばならないが、その場合消費者が事実を具体的かつ正確に把握し、積極的に意見を形成し、かつこれを十分に述べることが可能なように準備されて、はじめて適正な手続きがとられたといいうるのである。ところで、本件各認可処分に当たつて開催された公聴会においては、東京瓦斯株式会社の経営状態等の資料が消費者に全く知らされることなく、しかも消費者が直接参加する機会も十分に保障されなかつたから、手続上重大かつ明白な瑕疵がある。

2  本件各認可処分に係る一般ガス供給規程(以下「本件各供給規程」という。)には次のとおり内容上の瑕疵がある。

(一) 本件各供給規程において定められた料金は、その算定に著しく不正があつて、法第一七条第二項第一号の要件に適合しない。

また、本件各供給規程は地域毎に較差のある基準料金を設定しているが、このことは法第一七条第二項第四号にいう「特定の者に対し不当な差別的取扱いをするもの」に該当する。

(二) 東京瓦斯株式会社は本件各供給規程により、「熱量等の変更」すなわち「天然ガス転換」を行ないつつあるが、転換後のガスの家庭内の使用は従前のガスの使用に比して格段に困難であり、かつ各種の危険を伴つている。したがつて、本件各供給規程を実施することは、原告らの著しい不利益において、東京瓦斯株式会社が巨大な利益を得るため、一方的に旧契約を破棄して新契約を強制し、あるいは詐偽的にこれを締結することに当たる。

(三) 本件各供給規程は、「熱量等の変更」に伴い、その所有、管理するガス器具の改造を承諾しない使用者を不当に差別するものであつて、法第一七条第二項第四号の要件に適合しないのみならず、法律の禁止しているガス器具改造の役務の販売に関する独占権を東京瓦斯株式会社に賦与するものである。

(四) 本件各供給規程は、「熱量等の変更」に伴い、ガス供給の技術上の理由によつて、住居不可侵権及び財産権による制限を当然に解除されるものとする前提に立つて作成されている点で、瑕疵がある。

(五) 本件各供給規程は、熱量等変更の手続及び方法について具体的に明示していないし、使用者のガス使用場所への東京瓦斯株式会社係員の立入りに関する規定も内容が著しく不明確である。

よつて、本件各認可処分が無効であることの確認を求める。

第三被告の本案前の申立ての理由

本訴は本件各認可処分の無効確認を求めるものであるが、右各処分についてはおよそ後続処分というものは考えられないから、選定者らが後続処分によつて損害を被ることも考えられないし、選定者らは、本件各認可処分の無効を前提に現在の法律関係に関する訴えを提起することによつて、その目的を達することができる(現に選定者らは原告らを選定当事者として東京瓦斯株式会社に対しその種の訴えを提起している。)から、結局原告らは本件訴えについて原告適格を有しないことは明らかである。

第四請求の原因に対する認否

請求の原因一の事実は知らない。同二の事実は認める。同三は争う。

理由

一  本件訴えの適否について判断する。

本訴は本件各認可処分の無効確認を求めるものであるが、右各処分は、被告が東京瓦斯株式会社の申請に対し、法第一七条第一項の規定に基づいてした供給規程の変更認可処分であつて、同処分については後続処分というものは考えられないから、選定者らが当該処分に続く処分により損害を受ける虞のある者に該当しないことは明白であるし、選定者らが、原告ら主張のとおり、東京瓦斯株式会社との間で燃料用ガスの継続的供給契約を締結している者であるとすれば、本件各認可処分の無効を前提として、同社との間に右各処分に係る変更前のガス供給規程に基づく権利義務関係が存在することの確認を求める訴えを提起することが可能であり、これによつてその目的を達することができるから、行政事件訴訟法第三六条にいう「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」にも該当せず、結局原告らは本件各認可処分の無効確認を求めるにつき原告適格を有しないものといわねばならない。

二  よつて、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 山崎敏充)

選定者目録<省略>

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